【法務コラム】2019年会社法改正のポイント

1 2019年(令和元年)会社法改正の経緯

2019年12月11日に改正会社法と関係法律整備法が公布された。   
2014年(平成26年)改正以来である。
公布から1年6ヶ月以内即ち2021年5月11日までに施行される。
 

2 改正会社法の概要の目次

(1)株主総会に関する規律の見直し
  ①株主総会資料の電子提供制度
  ②株主提案権

(2)取締役等に関する規律の見直し
  ①適切なインセンティブの付与
    (ⅰ)取締役の報酬等
        ㋐ 報酬等の決定に関する方針
       ㋑ 株式報酬・ストックオプション
    (ⅱ)補償契約と役員等賠償責任保険契約

  ②社外取締役の活用等
    (ⅰ)業務執行の社外取締役への委託
    (ⅱ)監査役会設置会社における社外取締役設置強制
 
(3)その他
  ① 社債の管理
  ② 株式交付
  ③ 責任追及等の訴えに係る訴訟における和解
  ④ 議決権行使書面等の閲覧等
  ⑤ 登記
  ⑥ 成年被後見人等に係る取締役等の欠格事由

 

3 改正会社法の概要の詳細


(1)株主総会に関する規律の見直し

① 株主総会資料の電子提供制度
改正法は、株主との建設的対話促進の観点から、株主総会資料についての早期提供の手段としてIT利用を原則とした。
すなわち、株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し、株主に対しては招集通知書面で当該ウェブサイト・アドレス等の所定事項を提供することにより、株主総会資料に含まれる情報について書面提供を不要とすることを認めたのである。
そのような仕組みを採用する条件は、「電子提供措置をとる」旨を会社の定款に定めることである (改正会社法325条の2第1項)。
 

② 株主提案権
株主提案権のうち議案の要領記載請求権につき濫用的な行使を制限するために、取締役会設置会社の株主が請求できる議案の個数は10までとされた(改正会社法3条4項柱書前段)。
 

(2)取締役等に関する規律の見直し

① 適切なインセンティブの付与

(ⅰ)取締役の報酬等

㋐ 報酬等の決定に関する方針
改正法では、監査等委員会設置会社と、有価証券報告書提出大会社であって公開会社である監査役会設置会社について、取締役の個人別の報酬等の内容を定款または株主総会決議で定めた場合を除き、取締役会で取締役(監査等委員を除く)の「報酬等の決定方針」(事項は法務省令で定める)を決め(監査等委員会につき、改正会社法399条の第5項7号の追加)、この方針に基づいた報酬を定款または株主総会において決定することとした(改正会社法361条7項)。
 

㋑ 株式報酬・ストックオプション
改正法は、株式報酬等の決定方法を明確にすることにした。
すなわち、株式報酬等または当該株式・新株予約権の取得に要する資金に充てるための金銭報酬について、当該株式・新株予約権の数(種類株式発行会社では種類ごとの数)の上限その他法務省令で定める事項を(注5)、また株式・新株予約権以外の金銭でない報酬についてその具体的内容を、決めなければならないとした(改正会社法 361条 1項3号56号)。
 

(ⅱ)補償契約と役員等賠償責任保険契約
補償契約とは、役員等に対して一定の費用を会社が補償することを約する契約であり、その内容を決定するには株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議を要することとされた(改正会社法430条の2第1項柱書)。
この手続きの内容は、利益相反取引の規律に準じている(会社法456条、465条参照)。補償対象となる費用は、当該役員等がその職務の執行に関し法令の規定に違反したことが疑われ、または責任追及に係る請求を受けたことに対処するための費用などである(改正会社法430条の2条1項各号)。
役員等損害賠償保険契約(いわゆるD&O保険)とは、役員等がその職務の執行に関して責任を負うことなどから生じる損害を填補する契約であって、会社が保険契約者、役員等を被保険者とするものである(改正会社法430条の3)。


② 社外取締役の活用等

(ⅰ)業務執行の社外取締役への委託
MBOなどの局面で社外取締役に交渉・対応など業務執行を委任する場合、そのような業務執行の委任が会社の利益になる場合がありうることから、改正法は、会社と取締役・執行役が利益相反状況にあるときなど株主の利益を損なうおそれがあるときに、その都度、取締役の決定または取締役会決議により業務執行を社外取締役に委任することができるとし、そのことを理由にして社外取締役の要件に係る「業務執行取締役」「執行役」に該当することはない旨を明確にした(改正会社法348条の2)。
 

(ⅱ)監査役会設置会社における社外取締役設置強制
公開会社である有価証券報告書提出大会社に対して社外取締役の設置を強制した(改正会社法327条の2)。
それ以外の会社でも、社外取締役、さらには独立取締役の意義を考え、必要に応じて設置することが望まれる。


(3)その他
① 社債の管理
第一に、社債管理者との比較において権限と裁量が限定された(改正会社714条の4)。
第二に、社債権者集会の権限に元利金全額の債務免除が追加され(改正会社法706条1項1号)、社債権者集会の会社等からの提案に対して社債権者全員の書面または電磁的記録による同意の意思表示があれば決議があったものとみなし、かつ、決議に対する裁判所の認可を不要とした(改正会社法735条の2)。

② 株式交付
完全親子会社(100%保有)の形成については株式交換・株式移転の制度があるが、改正法において、他の株式会社を取得して子会社(50%超)とする場合に、当該株式会社(株式交付親会社)が子会社 (株式交付子会社)の株主に対価として株式交付親会社の株式を交付して取得する方法(株式交付)が組織再編行為の一つとして創設された(改正会社法2条32号の2、774条の2以下)。

③ 責任追及等の訴えに係る訴訟における和解
会社が原告となっている取締役等の責任追及訴訟で和解をするときの手続等につき、監査役・監査等委員・監査委員全員の同意を得なければならないとされた (改正会社法849条の2)。

④ 議決権行使書面等の閲覧等
議決権行使株主のプライバシー保護や閲覧の濫用防止を考慮して、他の閲覧請求と同様に、請求時に閲覧等の理由を明らかにすることが求められ、会社の拒否事由も明確にされた(改正会社法311条4項・5項等)。

⑤ 登記
募集新株予約権について払込金額を定めた場合(会社法 条1項3号)、複雑な数式等を登記しなければならないなど登記申請人の負担や登記記載事項の理解という観点からの改善の必要性が指摘されていた。
改正法では、登記申請時までに金額が確定していれば払込金額を公示すればよいこととした(改正会社法911条3項12号へ括弧書)。

⑥ 成年被後見人等に係る取締役等の欠格事由
成年被後見人・被保佐人は取締役・監査役となることができない(会社法331条1項、335条1項)。
しかし、このような欠格事由規定は成年後見制度の利用促進にとって障害となっているとの指摘があったので、改正法は欠格事由から削除した。      
以上
(弁護士 鈴木忠司)

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